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はじまりの物語

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母校を、人と自然をつなぐ場に

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インタープリターという言葉を聞いたことはありますか? 今、国立公園や自然学校、エコツーリズムなどで、自然と人をつなぐガイドとして注目され、地域の自然や歴史などをわかりやすく伝えることから、翻訳者とも比喩されています。

祖母山麓エリア再生プロジェクトの一環として実施された、インタープリター養成講座の第1期生卒業生であり、現在インタープリターとしてツアーガイドや登山道整備を行う工藤桂太さんの活動拠点は、廃校となった母校の「あ祖母学舎」。交流拠点として生まれ変わった場所で、現在の活動に至った経緯や、祖母山麓の魅力について聞きました。

工藤桂太

くどう・けいた 1974(昭和49)年生まれ。竹田市出身。
祖母山麓で、自然保護活動や登山道整備、トレッキングガイドなどを行う団体MMS21(mother・mountain・sobo)のリーダーとして活動中。参加者と共に登山道を整備するトレイルワークをツアーに取り入れている。
地元穴森神社の氏子として、獅子舞の太鼓を担当するお祭り男。自動車整備工場代表。

生まれ変わった母校

旧校舎のグランドは、今でも地域の人たちに活用されている。スコアボードは工藤さんの父親作。

ふるさとの母校を訪れたことはありますか? 学び舎の風景を思い出せますか? 記憶に残る断片は? それとも、もう関係ないでしょうか? もし、その母校が閉校するとしたら…?

祖母山麓の嫗岳地区で環境保護活動や登山道整備などを行う地域団体、MMS21(mother・mountain・sobo)のリーダー工藤桂太さんの活動拠点は、閉校した母校”あ祖母学舎(あそぼがくしゃ)”。工藤さんの案内で訪れると、まず、校門の前にそびえる学校のシンボル、ケヤキの巨木を紹介された。夕方になると、樹齢100年ほどの大樹の向こう側から夕日が差し込みきれいだという。そう聞くと一気に、小学生時代の、まだ遊び足りない、家に帰りたくない夕方に引き戻された。

「あ祖母学舎」は、平成11年に廃校となった嫗岳小学校の校舎を利用した、体験交流宿泊施設。祖母山の神原登山口まで車で15分という立地もあって、訪れた日も、長崎からの2組の登山客が滞在していた。建物の中に入ると、まだ黒板が残る部屋に二段ベットが並び、階段の踊り場には古いオルガン、2階の奥には静かで日当たりのいい図書室もある。スリッパを勧められたけれど、履かずに懐かしい学校の床の感触を楽しんだ。工藤さんは、片道4キロの通学路を1時間かけて通っていたという。

教室に泊まれる「あ祖母学舎」。山仲間と合宿気分で過ごすのも楽しい。
学校だった当時の本が並ぶ図書室。いずれはここをワーケーションスペースにしたいと話す工藤さん。

「最初に聞いたときは、寂しいというか惨めでしたね。ずっと見てきたつもりだったので、ついに来たかという感じでした」と工藤さん。この地で暮らし、地域で活動してきた工藤さんにとって拠り所でもあった学校がなくなることに、地域の危機感も感じたという。

その後、工藤さんの親世代が、「あ祖母学舎」として生まれ変わらせ、新たなスタートをきることができた。軌道に乗ってからは、工藤さんたちも運営委員に加わり活動を続けている。「この地区や、山を守るのと一緒で、あ祖母学舎が、旧小学校区のみんなの拠り所となるように、今後も活動を続けていきたいです」と、廃校時の寂しさは、モチベーションに変わったようだ。

学校のシンボルだったケヤキは、今もみんなを見守ってくれている。工藤さんに見せてもらった古いアルバムの中のケヤキよりだいぶ大きくなっていた。

工藤さんは、生まれも育ちもこの嫗岳地区。大学の4年間だけ、地元を離れ長崎へ。夢は、テレビで見るような都会のビジネスマンだったというが、長男ということもあり、定年を迎えたら地元へ帰るのだろうと思っていた。しかし、就職活動の中で、いつか帰るなら、最初から地元で働いた方がつながりもできるかもしれないと、卒業と同時に戻ることにした。

見えていなかった当たり前の自然

何をするにも集まるのが好きで、結束が固いこの地区。スポーツの行事も、文化的な行事にもみんな協力的で、40代以下の比較的若い仲間たちでいつも集まり、いろんなことをやってきた。この地域が、「祖母・傾・大崩ユネスコエコパーク」に登録されるのを機に、mother・mountain・sobo=MMS21という団体をつくり、活動の幅も広がっていった。竹田市の他の地区では、60代で若いと言われる中、MMS21は超若手。そのメンバーが地域のために活動するというのは、地元の人からすれば、彼らこそ天然記念物並みに希少なのだそう。MMS21のリーダーを務める工藤さんは、平日は自動車整備工場を経営し、土日はほぼ地域の活動にあて、休みなしで動き回っている。「僕がクローズアップされることが多いですが、メンバーがいてこそだと思います。みんな本当にしっかりやってくれています」とメンバーを労う。

お気に入りの場所、神原渓谷大橋にて。正面には祖母山の稜線を、真下には神原渓谷と美しい緑を見下ろす。

ユネスコエコパークに登録される際、地区の人たちに、エコパークとはどういうものなのか知ってもらおうと勉強会を企画した。有識者の話を聞き、それまでは当たり前と感じていた祖母山の自然に対する意識が変わっていく。「ここには、水であったり、動植物であったり、私たちの先祖や大先輩たちが、山から頂いてきたもの、大事にしてきたものが今も受け継がれています。それが、”自然と人との共生”というユネスコエコパークの一番大きなテーマなんです」

ユネスコエコパークに登録されたからといって、人が来てくれるわけではなかった。自分たちにできることは何だろうと考え、5合目小屋までのトレッキングコースを、より安全なコースにするため登山道の整備を始めた。次に、訪れる人は何を求めるだろうと考え、自分たちが山のことを学び、ガイドできるようになろうとインタープリターの講習を受けることにした。

登山道整備をする工藤さん。ツアーではお客さんと一緒に作業を行うことも。下山中の登山者から、感謝の言葉をかけられた。

インタープリター養成講座を受講したのは竹田市在住の8人。植物好き、農業従事者、宿泊事業者など、様々なメンバーの個性を生かしたツアーを企画している。今後、観光協会を通じて受け付ける予定だ。工藤さんは、MMS21で活動してきた登山道整備を実際に見てもらい、参加者にも体験してもらうトレイルワークという形のツアーを企画している。山を整備する側と登山者との接点を作ることで、その山の魅力をより深く知り、その山に愛着を持ってもらう機会になるというわけだ。

養成講座での大きな気づきは、自分たちは自然の翻訳者だということだった。訪れた人々に自然の豊かな繋がり、希少性を伝える。学ぶほどに、この自然を残し守っていく活動を次世代に伝える使命を感じるようになる。

「僕らの活動の理念の中で、一番大事なのは人材育成だと思っているんです。僕らは、地域の強烈なリーダーたちにいろいろ教わってきて、なんとか今も活動を続けられています。その思いを後に続く人たちにも伝えたい。地区の子どもは少なくなってきていますが、竹田の城下町から活動に参加してくれる若いメンバーも出てきています。彼らに思いを伝えて、この地域だけじゃなくて、竹田市全体で祖母山麓を守っていかなければならないなと思っています」

山と人、世代もつなぐインタープリター

祖母山山頂にて、山頂標識を持つ5年生の工藤さん。嫗岳小学校の遠足では、1、2年生は5合目まで、3、4年生は8合目まで、5、6年生でやっと山頂に登れる。

インタープリターの勉強をすることで、地域のお年寄りに話を聞く機会も増えた。「山から、木材をどういうふうに運び出していたのかなど、今のおじいちゃんおばあちゃんたちも、伝え聞いた話だったりするんですが、それでもネットでは拾えないことばかり。当時は木材など、山の恵みで生計を立てていたと思うと、昔の人はすごいなと感じました。自分がすごいと思った話が、お客さんも面白いと思ってくれるので、これからも聞き取りを進めていかなければと思っています」

聞かれた側のお年寄りも、生き生きと語ってくれるのだという。「おじいちゃん、おばあちゃんたちも、僕らと同じように、伝えたいと感じていたんだと思うんです。改めていい機会だったなと感じています」

山の魅力は、山麓を知ることでより深まる。こうして、地元の人しか知り得ない知識を、訪れた人に伝えることで、登山だけでない山の楽しみが広がる。インタープリターは、人と自然をつなげるだけではなく、人も世代もつなげている。最後に、あ祖母学舎の最終目標を聞いてみると、ワクワクするような計画を話してくれた。

「いろいろあるんですが、一つはキャンプ場をつくりたいんです。この辺でメジャーなキャンプ場といえば久住高原あたりです。お客さんも多いです。見学に行って、羨ましいなぁとは思ったんですけど、僕らはまた違う形というか、テントがひしめきあっているよりも、もっとゆっくり過ごせるキャンプ場をつくりたいと思ったんです。そういう住み分けは大事だと思っています」

今は、キャンプブームも手伝って、グランピングのような、日常生活と変わらないほど設備の整ったキャンプ場も増えてきている。でも、この地区の魅力は、何でも揃う快適さではなく、日常を離れられるところにある。工藤さんは、この嫗岳地区の里山全体を、一大キャンプ場のようにできたらと語る。

「神の里交流センター緒環には、ソロキャンプ場をつくったり、渓谷沿いにもサイトをつくったり、あ祖母学舎では車が乗り入れられるファミリーキャンプができたり、樹間にハンモックを張れたり、里山がそういうフィールドになったらいいなと思っています。今、実際に場所を変えてキャンプをしながら実験もしています。先週はあ祖母学舎に何組かお客さんを呼んで、キャンプをしてもらって、意見を集めました」

同じ地区で、季節ごとにテントを張る場所を変える。釣り客は渓谷沿いに、登山客は山の近くにと、自分のアクティビティに合わせたキャンパーがあちこちにいる景色は面白い。そうやって、まるで故郷に帰るようにこの山麓を楽しむ人が増えていく未来が見えた。

「あ祖母学舎」のグランドにて。ここをどんなキャンプ場にしようか想像を膨らます日々。
古くから続く祭りを継承するのもユネスコエコパークの理念の一つ。ここ穴森神社の秋祭りでは、獅子舞の太鼓を叩いている。

今回インタビューした、インタープリター工藤さんのガイドツアーは、実際に山道を歩きながら、参加者と一緒に登山道整備や清掃を行うトレイルワークというスタイルです。安全登山と自然保護の両方を考え、山の未来をイメージしながら、登山者自身が山を整備する、祖母山麓や山を深く知ることができるツアーです。

[ガイドツアー問い合わせ先]

◆竹田市観光ツーリズム協会

0974-63-0585

ご予約の際に「祖母山麓エリア再生プロジェクトのホームページを見た」とお伝えください。

[大分県竹田市の宿泊、観光情報サイト]

たけ旅

https://taketa.guide/

text:Naho Yonemura / photograph:Tomokazu Murakami

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