Feature

はじまりの物語

UPDATE

「家賃」は蜂蜜と気付き。

UPDATE

祖母山麓の自然の中で、朝の早くから、せっせと花蜜と花粉を運ぶニホンミツバチたち。そんな働き者の彼らが住む巣箱を管理しているのがハチたちの「大家さん」、養蜂家の大屋敬一さんです。その「家賃」は甘い蜂蜜と、命あるもの全てが関わり合い、多様な恩恵を受けて生きているという気づき。ミツバチたちから教わった生物多様性の大切さを伝えています。

大屋敬一さん

おおや・けいいち 1961年生まれ、竹田市在住、大阪出身。養蜂家。養蜂グループ「ミツバチのひざこぞう」を主宰している。福岡市で小学校の校長を務めていたが、退職して竹田市に移住し、養蜂業を始める。

生物多様性教育が契機

大屋さんが自然に興味を持ったのは、福岡市内の小学校での教員時代。理科の研究校として生物多様性教育に取り組んだのがきっかけでした。

子どもたちのために指導法を研究し、カリキュラムを作っているうちに、気付いたことがありました。それは昆虫の生息数が減っていることでした。

子どもの頃、夏休みに山口の親戚の家で1カ月を過ごしたことがありました。1日中、山を走り回ってカブトムシの採集を楽しんだそうです。そして夜になれば網戸にたくさんの虫がくっついて、寝られないくらいだったことも。「でも最近、親戚の家に行った時にはもうあれほどの虫はいなかったんです。あの時いた昆虫たちはどこへいったのか」

変化は身の回りだけではありませんでした。海外の調査によると、ドイツの自然公園では、30年前に比べて7割の昆虫が姿を消していたそうです。変化は世界規模で起こっていました。

巣箱に出入りするミツバチを眺めるだけでも見飽きることがありません。
突然死を起こすことも。各地で除草剤の影響も懸念されています。

昆虫の危機は人間の危機

大屋さんは東日本大震災を機に、見よう見まねで自然農を学び、ニホンミツバチの巣箱を置くようになりました。

昆虫の減少について、趣味で始めた養蜂でも思い当たることがありました。女王バチが弱って、産卵しなくなる巣を少なからず見てきたからです。頭の中で全てがひとつに結びついたそうです。

「人間は多様な生物の恩恵を受けながら生きています。生き物同士のつながりがあるわけです。その生物たちが非常に危機な状態であるというならば、それは人間の危機でもあるということ。これを子どもたちに教えなくてはならないと思った」と大屋さん。生物多様性の大切さを学び、伝えようと思った瞬間でした。

大屋さんの自宅本棚には、ミツバチや自然農の本がずらり。

「養蜂をやりたい」で移住

小学校の校長として教育に打ち込むうちに、いつしか自然あふれた場所で暮らしたいとの思いに駆られていました。退職して間もなく、自然農の仲間から、竹田に空き物件があると紹介されました。

「空き家バンクも見ていろいろ検討しましたが、ここに決めました」と大屋さん。虫は入ってくるし、雨音はうるさいし、獣の気配も近隣に濃い物件でした。

「早く養蜂がやりたい」との一心から、思い切って家を購入。杉板を買ってきて、壁はすべて自分で塗り直してリノベーションした手作りの住まいです。

家の前でミツバチと暮らす。そんな理想の生活を目前に、思わぬことが起こりました。ハチたちのためにと、7つ置いた巣箱に1匹の「入居者」も来ませんでした。この時、福岡や阿蘇山麓に置いていた巣箱には8割ほどが入っていたのに、です。

「おそらく水のせいだろうと頭をよぎりました」

試しに既に巣作りが行われている巣箱を熊本から持って来て、家の近くに設置しましたが、ミツバチたちは日に日に弱っていったそうです。

ミツバチを育てるために必要な条件は花の蜜を取る植物があることだけではありません。ミツバチたちは巣箱を冷やすために、ひっきりなしに水を飲みます。もしも近くの水場に除草剤や殺虫剤などが混じっていれば、いずれ弱って死んでしまいます。

「だから、巣箱をできるだけ水がキレイなところに置くことにしました。条件を変えたら、今年は15箱も入ったんです」と大屋さんは手応えを語ります。

「私はいろんな場所で養蜂をやります。水だけでなく日当たりや風の具合、巣箱からの見通し、周りの植生等を見て置きます。そんな場所を、ミツバチたちが気に入ってくれたのだと思います」

自宅の窓から見える集落の風景。無農薬の田んぼが増えているそうです。
使い込まれた巣箱がミツバチたちのお気に入り。

ハチからの学びを小学生に

巣箱を置くには、山の持ち主への許可と役所への届け出が必要になります。15個の巣箱は、大屋さんと山主とのつながり、関係性の証拠でもあります。

「竹田ミツバチプロジェクト」と題して、採蜜のワークショップなどを開催し、ミツバチを通じて竹田の自然や魅力の紹介も始めました。先日は祖母山麓エリア再生プロジェクトと連携し、エリアにある唯一の学校、竹田市立祖峰小学校を訪れ、総合の学習「養蜂体験」の講師も務めました。

現地に行って巣箱の様子を観察したり、ハチミツの味の違いを確かめたり、体験を通じてミツバチを取り巻く自然環境に興味を持ってもらう狙いです。ミツバチが減っている現状は子どもたちにも伝わっているようでした。

大屋さんの養蜂グループの名は「ミツバチのひざこぞう」。イギリスでは「ハチの膝」には「飛びきり素晴らしい」という意味があるそうです。ニホンミツバチから生物多様性や自然を学ぶ取り組みが、とびきり素晴らしい活動になりますように。そう願って、大屋さんは竹田の自然とミツバチに今日も学び続けています。

総合の学習で講師を務めた大屋さん。児童たちと記念撮影。
それぞれ風味の異なる大屋さんの蜂蜜

ミツバチのひざこぞう

にほんみつばち 百花蜜

118gl  ¥2,200

お問い合わせ

itonami kitchen

大分県竹田市門田1402

080(3902)1534

text: Takuya Wakaoka

photograph: Tomokazu Murakami , Naoto Kojima

他の特集記事を見る OTHER feature

ACCESS

⾞でお越しの
場合

  • 福岡から

    2時間半〜3時間程

  • ⼤分市から

    1時間程

JRでお越しの場合※乗り継ぎ時間除く

  • 福岡から

    3時間半〜4時間

  • ⼤分市から

    1時間程

⾶⾏機でお越しの
場合

  • ⼤分空港から

    バス→JRで2時間程