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はじまりの物語

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人やまちとの出会いが編まれていく機織り教室

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里山の教室に、ぱたん、ぱたんと機織りの音が教室に響きます。ここは旧宮砥小学校の2階にある宮砥工藝舎の機織り教室。「失敗してもええねん」。主宰する高木康子さんがあっけらかんと笑います。教室で重んじているのは、自分らしく、感じるままに織ること。自由を愛する高木さんの人柄に惹かれ、教室には、生徒だけでなく、ふらりと集う人が絶ちません。

高木 康子

1958年生まれ、大阪府出身。さをり織り作家。92年に大分県に移住、2005年より竹田市在住。10年に宮砥工藝舎を設立して、機織り教室を開始した。

手織工房ぱたんこ屋
http://patancoya.com

笑いの絶えない教室

竹田市立宮砥小学校跡
付け足された「跡」の文字が廃校であることを示しています。廃校から約20年が過ぎても校舎はまだまだキレイです。

誰もいない教室は授業前のように静か。小学校だった頃と違うのは、大きな織り機と鮮やかな色彩の糸が無数に並んでいることです。何台も置かれた機織り機は「もらったものが多いんよ」と高木さんが教えてくれました。「自分からほしいって言ったことないのにね。大阪出身のおばちゃんやから言いそうやろ?」と楽しそうに笑います。

高木さんが教えるのは「さをり織り」。自分の感じるままに、好きに織る手織り物のことです。だから、機織り教室では、その日の気分に合わせて色の糸を選びます。そして、高木さんが縦糸を張った織り機に横糸を通して織っていきます。

最初に織り機の動かし方を教われば、あとは自由。縦糸が一本抜けていても、横糸の間隔がまちまちでも、高木さんは「うまくやらんでいいんよ。それもいいね」と笑顔で肯定してくれます。

「教室なのに、何も教えてないの。いろいろ考えてしまうから、大人よりも、子どもの方がコツを掴みやすいんよ」。

そう話す高木さんは生徒を後ろからにこにこ見守ったり、顔見知りが来たらおしゃべりをしたり。教室は機織りの音と笑い声にずっと包まれています。

笑顔で話す高木康子さん
笑顔とマシンガントークが絶えない高木さん。
生徒に伝える高木康子さん
「いいね」「面白い」と生徒に伝えつつも、上手に織ることにはこだわりません。
色とりどりの縦糸
色とりどりの縦糸は、高木さんがその日の気分に合わせて張ります。

心の声に従い表現活動

高木さんはずっと、表現者として歩んできました。若かりし頃は写真に夢中でした。刺青の写真を撮りたくて、その筋の事務所に単身で通っていたというから驚きです。

「盃を交わすことになるのは困るから出入りするのやめてん」。

その後は陶芸の学校に通い、作陶に没頭。今ほど海外旅行が一般的でなかった頃に、悟りを開こうと修行のために、単身でインドやネパールにを巡ったこともあります。「頭を丸めていたからか、野宿してたら食べ物を供えられたこともあるわ」と、高木さんは楽しそうに思い出を語ります。

その時々の心の声に従い、自分のやりたいことをしてきたエネルギッシュな高木さんが、ついに出会ったのが「さをり織り」でした。感性のおもむくままに織り上げる布は、仕上がるまでどんなモノになるのかは分かりません。自分の発想の中になかった、思いがけない布ができることもあります。それが楽しいのだと高木さんは言います。

ずらりと並んだ色、素材、質感の異なる糸
色、素材、質感の異なる糸がずらり。教室では、この中から好きなものを選んで織っていきます。
その時の心が織り方に出るというさをり織り
あえてほつれさせたり、玉をつくったり。その時の心が織り方に出ると高木さんは言います。

機械を使った均一の織物とは違い、さをり織りはすべてが一点物。高木さんにとっては、自分の感性をそのまま素直に表現することができる表現方法です。優劣を競う必要も、「こうすべき」という固定観念もありません。高木さんは最近、感動して泣き出したという話を切り出しました。

「ふと、改めて気づいてね。当たり前なんやけど、自分に似てる人なんていないんやなあって。みんな違うんやって感動してね。織物も一緒で決まりきったものを織らなきゃいけんなんてことはないんよ」

喫茶店の代わりに川の水

陽光を浴びてキラキラと輝く水面
陽光を浴びてキラキラと輝く水面に心惹かれ、「また写真がやりたくなってん」と高木さん。

竹田市に住みはじめてから15年ほどになります。何かに強く引かれたわけではなく、成り行きだったと言います。どこまでも自然体の高木さんです。

大阪出身というイメージ通り、明るくマシンガントークを繰り広げる高木さんですが、「ずっとしゃべってるように思われるかもしれんけど、ものづくりしてる時は違うから(笑)」と、やはりにぎやかです。

自然豊かで静かな竹田は、大阪とは正反対の静けさです。集中して創作するにはぴったりな環境だと高木さんは言います。ただし、「たまに一人でしゃべってる時もあるけど」と自分でオチをつけます。

息抜きで足を運ぶのは、祖母山のふもとにある神原の川です。午後3時ごろになると、日差しを受けて、水面がキラキラと輝きます。都市部にはない美しさを堪能しながら、「喫茶店に行くように、ほんまに茶をしばきにいく感じで川の水を飲むんです」。たまに友人も一緒に川を訪れるそうですが、「飲もう」と勧めても断られてしまうようです。

染料となる校庭のコケ
校庭のコケも染料になるそうです。
校庭の片隅に生えていた草を食べる高木さん
「これ、食べられる葉っぱ」と突然、校庭の片隅に生えていた草を食べる高木さん。野趣あふれる味でした。
「ナンバ歩き」を披露してくれる高木さん
自由すぎる高木さん。なぜか「ナンバ歩き」を披露してくれました。

お茶請けとオリジナルの地図

高木さん自作のマップ
高木さんが自作のマップでお気に入りスポットをご紹介。

誰でも出入り自由な機織り教室の隣には、お茶請けがたっぷり用意されています。生徒だけでなく、ふらりとやってくる人も歓迎するためです。いろ「いろんな人が来た方が面白い。それに人と人をつなげるのが好きなんよ」と高木さん。教室を始めた当初は、ヒッピー系の高木さんの友人が来て、地元の人は目がテンになっていたことも。最近はミャンマーのお坊さんが来訪したそうですが、もう誰も驚かなくなっていたそうです。

教室の入り口には、高木さん手作りの地図が置かれています。バイクで走っていて気になったところに行ったり、生徒や地域の方々から教えてもらった情報をもとに、びっしりと書き込まれています。「おやつ屋って知ってる?」「すっごいきれいなおはぎを作ってる。つるつるの、ピカピカの」「看板もないよね」「どこにあるんかな」。矢継ぎ早に質問し、得た情報をもとに、自分で訪れて情報を加えていきます。この地図も、人と人、人と地域をつなげてくれます。

さて、今日も教室に誰か来たようです。織り機で縦糸と横糸が編まれていくように、ここは人やまちを結ぶ場でもあります。竹田をはじめて訪れる人にとって、高木さんの教室はきっと新しい出会いを編んでくれることでしょう。

織り上げられたストール
お話を伺っている間にあっという間に織り上げられたストール。

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