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竹田の水のはじまり。どこから来るのでしょう?

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名水として知られる竹田湧水群。「名水百選」に選ばれるほどで、湧出地は50カ所を超え、水量も豊富です。柔らかな口当たりの水は地域に親しまれ、生活に潤いを与えてくれます。とめどなくあふれる水を見ていると、ふと疑問が湧いてきました。この水はどこから来るのでしょう。答えを求めて、地質学者の永田さんと現地を訪ねてきました。

竹田の名水を訪ね歩いた永田さん。「湧水はどこにでもあるわけじゃありません」

永田紘樹

1982(昭和57)年生まれ。熊本市出身。熊本大学大学院自然科学研究科で地質、古生物学を学ぶ(修士)。学芸員として身近な物事と地質学を、ワクワク楽しく繋ぐ普及活動を行っている。「ブラタモリ」、「日本人のおなまえ」などに出演。自分で焙煎までする無類のコーヒー好き。

水あるところに暮らしあり

穏やかな雰囲気の入田地区。田園風景が広がります。

水の豊富なところに人の暮らしは生まれます。竹田も例に漏れずでした。江戸時代の中頃には、既に南部で大規模な水路をつくる計画が持ち上がっていました。300年以上前から人が住み、農耕が行われてきたことを物語っています。

一方、生活になくてはならないものだからこそ、水は争いの種にもなりました。自分たちの田畑に入る水の量を巡って、いさかいが絶えなかったと言います。等しく水を分配するためにつくられたのが「音無井路円形分水」でした。争いはあれど、水によって人の暮らしがはじまったのです。

6連アーチが特徴的な「​​明正井路一号幹線一号橋」は現在も水路として活躍中。
この橋は1919年に完成して以降、祖母の水を運び続けています。
水争いを丸く収めてくれた音無井路円形分水。
円形分水のかたわらには記念碑が祀られています。

「阿蘇が起源」ではない?

看板の説明を読み、永田さんが疑問を口にしました。

歴史を振り返ったところで、まず訪れたのは矢原湧水。祖母山を源流とする大野川の間近にあり、水面は同じ高さで、川に注ぎ込んでいます。

湧き上がっている様子までクリアに確認できるほど、透明度の高さが見て取れます。すっきりした飲み口の清水でした。

川の右にあるのが矢原湧水。最初は露天風呂のようにも見えました。

かたわらには看板が立っています。「阿蘇地方に降った雨」が地下を流れてきたと記されています。名水として名高い阿蘇に水脈があるのなら、同じく名水なのだろうと納得しかけたのですが、永田さんは首を傾げています。

「阿蘇から地下をたどってくるにしても、ちょっと遠すぎる気がしていて。現実的じゃないのかなと思います」

波紋を呼びそうな発言です。阿蘇からの水として親しまれてきましたが、違うのでしょうか。とはいえ、確信はありません。いったんは水に流して次に進みましょう。

近くても水は長い旅をする

住宅地の間に現れる泉水湧水。

川に沿って遡上するように1kmほど移動。鳥居をくぐった先にある泉水湧水はさらに柔らかでした。水源のそばには青々とした苔が茂っていて、目にも鮮やかです。鳥居があるくらいですから、社もあります。

その奥は山の斜面が続いていました。木々に包まれた山を見て、永田さんが「やっぱり、違うんじゃないかな」とつぶやきます。

祖母山系の山が間近にあり、その間を川が流れている以上、山肌から地下に浸透して、流れをつくっているのは確かです。数十kmも離れた阿蘇から流れてきているのではなく、近隣の山々に浸透した後に湧いてきた水だと、永田さんは推測します。

「雨水はいったん地下に入っていくので、湧水として地上に出るまでに数十年はかかるかもしれません」

近くにある山を経由していたとしても、水は長旅をします。ひょっとしたら、私たちが生まれる前に降った雨、あるいはそれ以前に降ったものが、いま目の前で湧いているのかもしれません。

「この湧水を普段から口にしている人は、時間を超えて旅してきた水を飲んでいるんです。そう考えると、タイムカプセルみたいですね」。

湧き出る水が不思議な模様を作り出しています。

祖母山と阿蘇がつくった

鳴滝水源にある鳥居も火山性の石でつくられていました。

さらに川をさかのぼり、長小野湧水を目指します。やはり鳥居を抜けて、お目当ての湧水へ。岩壁から勢いよく水が流れ落ちる「鳴滝」と、岩の間から湧き出す「塩井」という2カ所の湧水地があります。まずは鳴滝へ。

鳴滝の岩肌は特徴的。阿蘇の噴火によってつくられた柱状節理です。
鳴滝の水源。岩から流れ出る滝は神秘的。御神体にもなっています。

鳴滝のある大きな岸壁には、直線的な割れ目が無数に入っていました。

その様子を見た永田さんは「さきほどは阿蘇に起源があることを否定しましたが、阿蘇ゆかりの湧水には変わりありませんね」と言います。

割れ目の正体は「柱状節理」。マグマが冷えて固まる時に、縮むことで生まれる割れ目のことです。つまり、阿蘇山の噴火による産物です。

「竹田の大地は、阿蘇の火砕流が堆積してできています」と永田さん。その堆積物の中を通って、流れてきたのですから、阿蘇にゆかりのある水なのは間違いないということでした。

鳴滝水源にも阿蘇の噴火痕跡が。黒い部分はカルデラ爆発の影響でガラス化した軽石。

これまでは、阿蘇が象徴的なので、起源を求めすぎていたのかもしれません。そうではなく、祖母山と阿蘇がつくった水。どこにもない、ここだけの水。それが竹田の湧水なのです。

鳴滝から1kmほど上流にある塩井水源。
岩肌から染み出す水は、滝とは違った不思議さがあります。

水路をたどって遡上した先に塩井水源がありました。水の流れの終わりは大きな岩だらけ。その間に突き出たパイプから、水が流れ出ていました。

ザアザアと落ちてくる鳴滝とは対照的です。耳をすませば、微かに水音が聞こえます。静かな光景を眺めていて、ふと、永田さんに教わったことが一つの流れとしてつながりました。

今、この瞬間に流れている水も、祖母山系に降る雨が地下に潜り、長い年月をかけて、地上に帰ってきたものです。これから降る雨は長い旅を経て、未来の誰かが飲むことになります。

その時まで、この豊かな湧水群を守っていけるのかは、私たちの心がけ次第なのだと。

阿蘇の溶岩の上に寝転び悠久の時に想いを馳せます。


明正井路一号幹線一号橋(六連水路橋)

明正井路六連橋

高千穂へと通じる県道にかかる日本最大規模の6連石造アーチ橋。美しい6つのアーチが山裾の川から車道までを跨いでかかる堂々とした姿が印象的です。連数(6連)、橋の長さ共に日本一を誇る石橋水路橋で現在も水路には水を湛えています。松本清張の『詩城の旅びと』には「ローマの遺跡を思わせる」という一説があります。

■竣工1919年(大正8年)
■2002年土木学会選奨土木遺産
■橋長 78m

・住所:〒878-0011 大分県竹田市大字門田
・駐車場:あり
・エリア:入田エリア
・アクセス:豊後竹田駅より車で20分
・ジャンル:自然・公園、名水、歴史・史跡・神社


音無井路円形分水

昭和9年完成、円形分水は十二号分水とも呼ばれています。円形分水のできる昭和初期までは、三線の幹線水路に導入される水の分配で互いに反目し合い組合員が騒動を起こし、連日のように水争いが繰り返されました。この為、円形分水が施行され、適正な分配ができるようになり、円形分水は知恵の結晶ともいえます。

・住所:〒878-0572 大分県竹田市九重野百木
・駐車場:あり
・エリア:入田エリア
・アクセス:豊後竹田駅より車で30分


矢原湧水

川沿いにある湧水。岩の間から水がこんこんと湧き出ており、その水はそのまま川に流れ込んでいます。

・住所:〒878-0033 大分県竹田市大字入田
・料金:無料
・エリア:入田エリア
・アクセス:豊後竹田駅より車で10分
・ジャンル:名水


泉水湧水

日本の名水百選に選ばれた竹田湧水群の中の一つ。河宇田湧水のすぐ近くにある湧水で、湧水量が多く軟水で大変飲みやすいのが特徴です。

・住所:〒878-0033 大分県竹田市大字入田
・料金:無料
・エリア:入田エリア
・アクセス:豊後竹田駅より車で10分
・ジャンル:名水


長小野湧水(鳴滝湧水)

柱状節理の間から流れ落ちる水が特徴の水源です。近隣の集落の飲み水となっています。最奥の滝には古い梯子があり、信仰の名残がみられます。長小野湧水には鳴滝湧水と上流に2kmほど離れた場所にある塩井湧水とがあります。

・住所:〒878-0034 大分県竹田市大字門田1449
・料金:無料
・エリア:入田エリア
・アクセス:豊後竹田駅より車で10分
・ジャンル:名水


長小野湧水(塩井湧水)

岩の隙間から静かに湧いている素朴な湧水。透明度の高さが魅力で、おもに農業用水として使われています。近くに駐車場と専用の水汲み場があります。

・住所:〒878-0034 大分県竹田市大字門田
・料金:無料
・エリア:入田エリア
・アクセス:豊後竹田駅より車で10分
・ジャンル:名水

お問合せ先
竹田市商工観光課
〒878-0011 大分県竹田市大字会々2250-1
TEL:0974-63-4807

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