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祖母山のはじまりと、白亜紀からの贈り物

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昔の出来事は地下で、地上は現在。私たちの暮らす大地は積み重なっていて、それが当たり前だと思っていましたが、当たり前ではありませんでした。そう理解できたのは、かつて城のあった山に登り、白亜紀からの「贈り物」に出会えたから。数千万年という途方もない時間を経て、小さな化石と出会った瞬間です。山頂はかつて海の底だったことを教えてくれました。

牧の城から周囲を一望する永田さん。奥にはくじゅう連山。

永田紘樹

1982(昭和57)年生まれ。熊本市出身。熊本大学大学院自然科学研究科で地質、古生物学を学ぶ(修士)。学芸員として身近な物事と地質学を、ワクワク楽しく繋ぐ普及活動を行っている。「ブラタモリ」、「日本人のおなまえ」などに出演。自分で焙煎までする無類のコーヒー好き。

徒歩10分で出会える絶景

「ここは海の底だったんです。その痕跡を探してみましょう」

地質学者・永田紘樹さんに誘われ、やって来たのは「牧の城」。JR豊後竹田駅から車で15分でアクセスできます。それだけではなく、徒歩10分とかからずに山頂を踏むことのできる気軽な低山です。何の苦労もなくアクセスできてしまい、それほど期待感はなかったのに、九州の名峰を一望できる絶景が待っていました。「牧の城」は私有地ですが、所有者のご厚意とそれに賛同した地元有志による整備の賜物なのです。

一際高いのが阿蘇山です。

祖母山はもとより、阿蘇五岳、くじゅう連山、由布岳、鶴見岳、傾山、これらの山々を一度に視界に収めることができます。山好きだけでなく、普段は登山に来ない仲間も大はしゃぎでした。

眺望がよいのは昔からのようです。かつては敵襲や異変を城に知らせるための狼煙台が設けられたと伝えられています。戦(いくさ)に明け暮れた中世の人々は、この絶景に何を思ったのでしょう。

日本列島ができる前から

山頂部は見晴らしをよくするために、きれいに整備されていました。

「ここから見える平地や盆地とこの山の違いが分かりますか?」

歴史に思いを馳せていると、永田さんからクイズが飛んできました。いろんな考えを検討してみるものの、見当もつきません。すると、こちらの表情を見た永田さんが答えを教えてくれました。

「形成された年代が大きく異なっているんです。平地や盆地は、阿蘇が起こした大規模な噴火によって生まれた大地です。埋め残されたのが山々です」

「Aso4」と言われる約9万年前に起きた大規模な噴火により、竹田の平地はつくられました。火砕流がそれまでの大地を飲み込み、その上に新しい生命が生まれ、今に続いているというわけです。

祖母山やほかの標高が高い山々は、火砕流で埋め尽くされることなく、山肌に降り注いだ火山灰が雨風に流され、噴火以前の地層を保っています。

説明を受けて見渡すと、確かに一目瞭然でした。山、盆地の境界がくっきりしていて納得です。

言われて見ると、山が火砕流に浮かぶ島のように見えてきます。

では、Aso4以前にあったのはいつ頃からの地層なのでしょう。こちらから聞くまでもなく、永田さんが話を進め、疑問を解消してくれました。

「もともとは日本列島が生まれる前、今のユーラシア大陸と地続きだった頃にさかのぼります」

その当時、海底に沈んでいたのが、現在の牧の城であり、日本列島が大陸から離れるときに隆起して山となりました。その日本列島の拡大時期に祖母山も噴火しています。大昔の話です。

「白亜紀の頃の地層です」と永田さんが、こともなげに告げます。数千万年も前の地層が、いま立っている地面の下にあると。そして、祖母山は日本列島よりも古く、白亜紀から今につながる山だということです。

唐突に言われても、なんだか壮大すぎてピンときません。一緒に説明を聞いていた仲間も同じような表情でした。

「白亜紀とは恐竜が生きていた時代ですね。ちょうどいい地層を見つけたんで、化石を探しましょう」

小さな化石が教えてくれること

ハンマーで泥岩を叩き、地球の歴史の1ページをめくります。

論より証拠です。永田さんの言葉に従い、地層が露出している斜面まで歩きます。見たところ、なんの変哲もない岩が転がっていました。専門家の顔になった永田さんが「これです」と、手慣れた動きでハンマーを振るい、ひとつの石を打ちます。

意外なほど簡単に割れました。海底に堆積した泥が固まった泥岩です。その断面を専門家の目がじっと見つめます。「ここには何もないですね」とつぶやき、石をあっさり地面に戻して新しい塊を手にしました。

泥岩があるということは、白亜紀の海底に住んでいた生き物が見つかる可能性があるということです。本当に生き物の痕跡なんてあるのでしょうか。半信半疑のまま、大人たちがしゃがみこみ、石を黙々と割っていきます。ハンマーが打ち下ろされる音だけが響きました。

これ、化石かな?素人には判別が難しいです。

なかなか見つからないまま時間が過ぎ、集中力が欠けてきました。ハンマーを地面に置き、手に持っていた泥岩に力を込めます。固そうに見えても実は柔らかく、手でも割れるのではないかと思ったからです。直感通り、薄い石はきれいに二つになりました。

長い時間をかけて固まったであろう石の断面を凝視します。それは本を開くような感覚でした。閉じられていたページに光を当てるような感じです。だんだん割ること自体も楽しくなり、次から次へと石片をポキリと折ります。するとその中に、小さな丸いカケラが入っていました。

本当に見つかりました。
見落としてしまいそうな小ささなのに、大きな存在感。

もしかして。永田さんに断面を見せます。

「これは、二枚貝ですね」

本当に見つかりました。その瞬間、景色が変わりました。ここは確かに海底でした。どんな言葉よりも深く、小さな化石が理解を促してくれました。遠くに見える祖母山も同じように、化石が眠っているのかもしれません。

人知れず、化石はずっと存在していました。ただ、そのことを私たちが知らなかっただけです。白亜紀との小さな出会いは、広い世界への理解を深めてくれました。白亜紀に生きた二枚貝の贈り物です。

そんな風に考えるのは、ちょっとロマンチックすぎるでしょうか。そう思って振り返ると、永田さんが嬉しそうに笑っていました。

※注意事項
牧の城は私有地です。立ち入りや登山は認められていますが、採取や採掘は法律で禁じられています。この記事は調査を目的として所有者の特別な許可を得て取材、作成しています。


牧ノ城

・住所:〒878-0032 大分県竹田市太田1036
・料金:無料
・エリア:入田エリア
・アクセス:豊後竹田駅より車で20分
・ジャンル:山

お問合せ先
竹田市商工観光課
〒878-0011 大分県竹田市大字会々2250-1
TEL:0974-63-4807

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